相続土地の国庫帰属制度について

解説記事

相続登記が義務化されるに際してもう一つの柱があります。

 相続登記が義務化されることの背景に、所有者不明土地を解消する必要があることは別の記事で触れました。法律の改正としては、令和3年に民法・不動産登記法(具体的には、家事事件手続法と非訟事件手続法も含みます。)の改正法が成立(令和3年4月28日公布)した訳ですが、もう一つの柱として、土地の所有権を手放すことを認める制度(相続土地国庫帰属制度)に関して、『相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律』が新たに制定されました。そして、この法律は、相続登記の義務化に先行して、令和5年4月27日から既に施行されています。

相続土地国庫帰属制度とは

 相続によって取得した土地について、「物件の所在地と相続人の住所地が遠方に離れているため、利用する予定がなかったり、管理が行き届かない」、「周囲に迷惑をかけないように管理するにしても時間や費用の負担がかなり大きい」などの理由により、その土地を手放したいというニーズが高まっていることを背景として、相続登記の義務化に関する法改正と同じ時期に新たに法律を制定して創設されたのが「相続土地国庫帰属制度」です。

 大雑把な内容としては、相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、その土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度なのですが、法律施行前から、要件が難解でかつ厳しすぎるため実際には多くの場合で使えない制度であるなど、専門家の評価はいまいちでした。

 また、よく似た制度として、相続人が一人もいなくなってしまったようないわゆる相続人不存在の場合に、相続財産法人名義となった残余財産を相続財産清算人から国庫に帰属させる場合は、民法第959条に基づいて行われるところ、これについては財務省から令和2年12月14日付の「国庫に帰属する不動産等の取扱いについて」と題する理財局長通達が発出されていて、これについても要件が難解かつ厳しすぎることを理由に無理筋であると言われていることも事実です。

 相続土地国庫帰属制度の概要については、以下のURLに法務省の該当ページが掲載されていますので、土地を手放したいとお考えの相続人の方は、一度参照していただきたいと思います。
 法務省 相続土地国庫帰属制度の概要
  https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html

相続土地国庫帰属制度の現状

 しかしながら、相続土地国庫帰属制度については、法律施行から約1年が経過しようとしている現段階での申請状況等が見えてきました。

 令和5年8月末日時点における全国の法務局に対する相談件数は、約1万4,000件です(令和5年10月4日付法務大臣閣議後記者会見)。そして、令和5年12月28日における申請件数は1,505件、取下げ件数は123件であり、却下を含めた最終判断まで行われた件数は91件であるところ、そのうち国庫帰属が承認された件数は、実に85件であったとのことです。(法務省が発表した統計情報)。

 この数字をどう読むかはなお難しいところですが、申請件数に対してその多くが未だ審査中であることから、要件にかなうのかどうかを慎重に見極めた上で申請をするのであれば、受理する側の法務局(法務大臣)も慎重に審査することとなり、相続土地国庫帰属制度の施行通達でも、「却下要件及び不承認要件は、客観的かつ具体的に認められることが必要であり、要件該当性に疑義がある場合には、当該要件には該当しないと判断する必要がある」と明言されていることから、法律制定の背景を踏まえると、この制度は積極的に活用されてしかるべき制度であると言えるのではないでしょうか。

【令和6年3月28日追記】
 令和6年1月31日時点での速報値を入手しましたので、追記します。
 まず、法律施行前の令和5年2月22日から開始していた事前相談件数を含めると、のべ2万1,985件(同一の方からの複数回相談を含む。)の相談がありました。また、相談件数が特に多いのは、東京、名古屋、横浜といった大都市部の法務局ですが、その法務局が管轄する都や県以外の地方部にある土地についてのものが大半を占めているという実態が浮き彫りになりました。そして、承認申請件数は、1,661件、取下げ件数は154件(うち79件は、土地の有効活用につながったもの)、最終判断として国庫帰属が承認された件数は117件(宅地52件、農用地24件、森林5件、その他36件)、却下件数は3件、不承認件数は7件とのことです。
 承認申請の審査についての標準処理期間は8か月で、相当数がこの期間内に審査完了していて、スピード感を持って運用されているようです。

相続土地国庫帰属制度を利用するための要件概説

 相続土地国庫帰属制度を利用するためにクリアすべき要件は、大きく分けて三つの観点から見極める必要があります。それぞれについて、留意事項を踏まえながら解説します。

①申請人の資格について

 『相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人であること。』

 取得原因が【相続】となるのは、法定相続、遺産分割、特定財産承継遺言(遺言者が、特定の財産を特定の相続人に対して「相続させる」旨の遺言をした場合。)の場合です。したがって、売買・贈与・信託等によって取得した場合は対象外となります。

 また、ここで言う【遺贈】とは、相続人に対する遺贈のことですから、相続人ではない甥や姪(代襲相続人となる場合は除きます。)、養子縁組していない娘婿等に対する遺贈は対象外となります。

 取得した時期については、制限がありません。法律施行前の取得でも対象となります。

②対象となる土地について

 『通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地(以下の却下事由又は不承認事由に該当するもの)ではないこと。』

却下事由

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • 他人の利用が予定されている土地
  • 土壌汚染されている土地
  • 境界が明らかではない土地(ただし、審査の対象は、所有権界であって筆界ではない。確定測量は必ずしも必要ではなく、隣地との境界が表示されており、申請者と隣地所有者との境界認識に相違がなく争いがないかどうかが審査される。隣地所有者に対する法務局からの照会に対して、無回答であったり不達の場合は、異議がないもの=消極的同意として扱われる。)
  • 所有権の存否や範囲について争いがある土地

不承認事由

  • 一定の勾配・高さの崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)があって、管理に過分な費用や労力がかかる土地(擁壁工事等の実施が客観的に必要である等)
  • 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
  • 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
  • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
  • その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用や労力がかかる土地(農業振興地域内の農用地区域にある農用地や土地改良区内の農地で賦課金が発生しているような場合)

③手数料等について

 申請時に納付する審査手数料は、1筆1万4,000円。

 国庫帰属承認が下りた場合に支払う負担金(10年分の土地管理費相当額)は、原則20万円。
 例外的に、面積に応じて負担金が増額となる場合があります。(市街化区域内の宅地や農地等)

【令和6年3月28日追記】
 令和6年1月31日時点での速報値によると、負担金額が20万円を超えたケースは45件あり、うち100万円を超えたものは13件であったとのことです。また、隣接している土地で種目が同一の場合の負担軽減策として、負担金を合算した事案が9件(20申請)であったとのことです。

 

 

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