相続登記の申請義務とは

解説記事

ここでは、相続登記の義務化に際して、実務運用の指針となる令和5年9月12日に法務省民事局長から発出された【法務省民二第927号 相続登記等の申請義務化関係通達】の内容に則して記述します。(太字は筆者。)※ただし、相続人申告登記の申出の手続に関する取扱いについては、除かれています。

遺言がされていない場合の申請義務

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならいこととされました(改正不登法第76条の2第1項前段)。

当該申請義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ること【相続人申告登記の申出】ができることとされ(改正不登法第76条の3第1項)、当該申請義務の履行期間内に相続人申告登記の申出をした者は、当該申請義務を履行したものとみなすこととされました(改正不登法第76条の3条第2項)。

遺言がされていた場合の申請義務

改正不登法第76条の2第1項前段の規定による申請義務については、相続人に対する遺贈により所有権を取得した者も、同様とすることとされました(改正不登法第76条の2第1項後段)。

したがって、所有権の登記名義人による遺言がされていた場合において、当該遺言により不動産の所有権を取得した者が相続人であるときは、当該相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請する義務を負うこととなります。

具体的には、遺言の内容が、相続人に対する遺贈であった場合には、改正不登法第76条の2第1項後段の規定による申請義務が生ずることとなり、遺産の分割方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言【特定財産承継遺言】であった場合には、同項前段の規定による申請義務が生ずることとなります。

これらの申請義務についても、当該申請義務の履行期間内に相続人申告登記の申出をした者は、当該申請義務を履行したものとみなすこととされました(改正不登法第76条の3第1項・第2項)。

遺産分割が成立した場合の申請義務

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により法定相続分(民法第900条及び第901条の規定により算出した相続分)の割合に応じた所有権を取得した者は、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請する義務を負うが、これに加えて、相続の開始後に遺産分割があったときには、当該遺産分割によって所有権を取得した者は、当該遺産分割の日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請する義務を負うこととされました(改正不登法第76条の2第1項前段)。この遺産分割が成立した場合の申請義務については、次の点に留意する必要があるとされました。

法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割が成立した場合の追加的申請義務

法定相続分での相続登記(所有権の移転の登記)がされた後に遺産分割があったときは、当該遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産分割の日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正不登法第76条の2第2項)。

相続人申告登記の申出後に遺産分割が成立した場合の追加的申請義務

相続人申告登記の申出をした者は、その後の遺産分割によって所有権を取得したとき(改正不登法第76条の2第1項前段の登記がされた後に遺産分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産分割の日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正不登法第76条の3第4項)。

代位による申請や官公署の嘱託により登記がされた場合の申請義務

代位者その他の者の申請又は嘱託により、改正不登法第76条の2第1項、第2項又は第76条の3第4項の規定による登記がされた場合には、所有権の移転の登記の申請義務について規定する当該各項の規定を適用しないこととされました(改正不登法第76条の2第3項、第76条の3第5項)。

申請義務違反に対する過料

改正不登法第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処することとされました(改正不登法第164条。

経過措置

改正不登法第76条の2の規定は、その施行日(令和6年4月1日)前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合について適用することとされました。

この場合において、当該施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日又は当該施行日のいずれか遅い日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました。

また、相続人に対する遺贈により所有権を取得した者についても同様に、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日又は当該施行日のいずれか遅い日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました。

さらに、法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割があったときは、当該遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産分割の日又は当該施行日のいずれか遅い日から3年以内に、その所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされました(改正法附則第5条第6項)。

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