相続登記義務化の背景

解説記事

法律改正の経緯

民法の相続法分野については、既に改正法が以下の表(※)に記載の通り、段階的に施行されているところですが、未だ積み残しとなっていた部分について、令和3年4月28日に、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)の二つが公布されました。その一環として不動産登記法も改正されて、原則として令和6年4月1日からいよいよ施行されることになっているのが「相続登記の義務化」と言われる制度です。

改正不動産登記法には、第76条の2という条文が新設され、ここに相続登記の義務化が初めて規定されました。また、第76条の3には、「相続人申告登記の申出」という新しい制度も規定され、第164条には、申請義務を有する者が正当な理由なくしてその申請義務を怠った場合の罰則として、過料に処せられる旨も定められました。

今後、登記簿上に記載されている登記名義人の氏名や住所に変更が生じた場合に必要となる「所有権登記名義人氏名変更登記」や「所有権登記名義人住所変更登記」も、令和8年度中にはその申請が義務化される予定となっています。

(※)今までに施行されている改正相続法と段階的施行期日

   改正相続法の主な改正項目    →      施 行 期 日   
 自筆証書遺言の方式を緩和する改正 →  令和元年(2019年)1月13日 
 改正相続法の原則的な施行 →  令和元年(2019年)7月1日
 配偶者居住権の新設等 →  令和2年(2020年)4月1日
 遺贈義務者の引渡義務等 →  令和2年(2020年)4月1日
 遺言書保管法 →  令和2年(2020年)7月10日

法律改正に至る背景

国内の社会経済情勢が著しく変化している中、年々特にその問題点が深刻化している「所有者不明土地問題(※)の増加現象」に対処するにあたって、これ以上の所有者不明土地の発生を予防するとともに、土地の適正利用及び相続による権利承継の一層の円滑化を図るための民事基本法制の大詰めの見直しが進められてきた結果、上記の法律改正に至りました。

(※)所有者不明土地問題とは

相続が発生すると、本来であれば相続人名義に相続を原因とする所有権移転登記を申請すべきところ、相続登記申請が任意であったこと、相続人全員で協議すべき遺産分割協議が調わない(不調)、協議したくてもそもそも相続人全員が誰なのかさえわからないため協議できない(不能)、相続後に活用できる見込みのない土地(や建物)は誰も相続したくないなどの理由から、長い間相続登記がなされないまま放置状態となってしまっていることから、不動産登記簿等からは現在の所有者が誰であるのか判明しなかったり、あるいは判明したとしても連絡が取れない状態に陥っているものが年々増加の一途をたどっていて、国土交通省の調査(平成29年度)によれば、調査対象土地の約22.2%(約410万ha)に及んでいます。ちなみに、九州全体の面積は、約367万haですから、相当の面積の土地が所有者不明の現状となっています。

このような所有者不明土地(や建物)は、管理自体も放置されているため環境悪化を招くほか、公共事業のための用地買収や民間の不動産取引の際に所有者を探索するための時間と費用が膨大にかかるなど、国民経済に著しい損失を生じさせています。これら一連の問題を所有者不明土地(建物)問題というのです。

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